きみのしあわせは、どこにあるの?
願わくは君の眠りが安らかなることを−1−
「そういえば、今日って刹那誕生日じゃない?」

食堂で、クリスティナが何気なく言った一言に、その場にいた全員が目を丸める。

「あ、確かにそうっスね!すっかり忘れてたっスよ」

リヒテンダールが、それに同意する。
ラッセも、「そういや、そうだったなー」と同じように頷く。
フェルトは気付いていたようで、ただこくりと首を縦に振った。

「せっかくだし、みんなでまたお祝いしよっか!」

アロウズやイノベイドとの戦いに一区切りを打ち、今プトレマイオス内は比較的ゆとりがある。
その折角のゆとりを無駄にしないようにと、クリスティナが提案する。
他の三人も、それに頷く。

刹那の誕生日をプトレマイオスクルーで祝ったのはこれが初めてではない。
武力介入を始める少し前、誕生日当日にそれが発覚し、少々無理矢理ではあったが、全員で彼の誕生日を祝った。
その頃彼は、まだ纏っている空気がぎすぎすしていて、クルーが口々に「おめでとう」と言っても、無愛想に返事をしただけだった。
今祝えば、きっと以前よりはよい反応を示してくれることだろう。


「でも」

誕生祝いの計画を楽しそうに立てる中で、フェルトがぽつりと言った。
三人共、フェルトに視線を向ける。

「せっかくだから、刹那がほんとうにほしいもの、あげたいね」

だって、彼の誕生日なのだから。

祝い事なんて、結局祝われる本人よりも祝っている側の満足感で構成されてしまうことの方が多い。
しかも、相手が刹那ならば、なおさら。
けれどフェルトは、祝う事にしても、何かをあげるにしても、刹那自身が、本当に望んでいるものを差し出したいと思った。
それは、普段物欲のほとんどない彼だからこそ、考えたこと。
そして、大切な仲間である彼だからこそ、思ったこと。

そのフェルトの一言で、食堂にいる全員の話し合いは、「刹那が何をほしがってるか」にシフトした。

「って、言ってもねぇ…。刹那って、何が好きだっけ?」
「えー…リンゴ…っスかねぇ」
「それじゃ誕生祝いになんねぇだろ」

先ほどと打って変わって、食堂の雰囲気が悶々としたものになる。
もうかれこれ30分ほど考え続けているが、「刹那が何をほしがっているか」の答えは一向に出てこなかった。


それからまたしばらくして、スライドドアが開く音が四人の耳に入る。
見ると、アレルヤとティエリアがそこにいた。
二人は、食堂の異様な空気に目を丸めていた。

「え、何これ。どうかしたの?」
「空気が重苦しいことこの上ないな」
「ちょっと行き詰ってるとこー」

アレルヤとティエリアの言葉に、クリスティナが口を尖らせて言う。
その言葉に、二人は眉をひそめた。

「二人は、どう思う?刹那の、本当にほしいもの」

フェルトが、これまでの経緯を二人に話す。
その話を聞いていくうちに、アレルヤとティエリアの表情も、徐々に他の四人(特に、フェルトを除く三人)と似たようなものになっていく。

「えー…刹那の、ほしいもの?…平和、とか?」

どこか自信なさげに、アレルヤが言う。
だが、その言葉にそれまで悶々としていた空気が少し変わる。

「そうよね、刹那が望んでるものって言ったら、紛争根絶よね」
「いや、でもそれはあげられないって言うか…あげられるんだったら俺ら必要ないっスよね」
「まぁ、そうだよな…」

少し変わった空気が、また悶々とし始める。
アレルヤは、場の空気を悪化させたような気がして、罪悪感を感じていた。


「でも、さぁ」

呟くように言ったのは、クリスティナだった。

「刹那って、すごいよね」

その言葉に、全員目を丸める。

「だって、マイスターに選ばれたのが14歳で、16歳でガンダムに乗って武力介入なんかしちゃって。
戻ってきたと思ったら、また戦って。世界から、紛争がなくなるようにって、戦って戦って。

そんな風にしてきた刹那の幸せって、どこにあるんだろうね」


誰も、何も言わなかった。

世界には彼と同じ歳で家族と普通に過ごし、学校に通い、思春期を謳歌する人間など沢山いる。
そんな生活を知らず、彼はずっと戦いの中に身を置き、今現在まで過ごしてきた。
その、戦いに満ちた人生の中の、どこに幸せがあるのだろう。
何が、彼にとって幸せなのだろう。

ソレスタルビーイングに初めて来たときの彼は、まだ子どもだった。
まだ、親の保護を必要としているはずの存在だった。
最年長の彼は「年齢は関係ない」と言っていた。
確かにそれは間違いではない。
ここにいる人間は、皆大抵訳アリだ。
だから、刹那は決して特別な存在などではない。
紛争根絶を掲げ、選ばれた存在であるならば、そこに年齢というものはただのおまけにしかならない。
彼は、そう思わせるような人間だった。
だがそれが、どれほど哀しい現実を示しているか。
考えれば考えるだけ、彼の存在そのものが、悲しさの象徴のように思えて仕方なかった。
09.04.08

title by=テオ

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結局間に合ってない罠。
しかも続く。(ぎゃふん