きみは、しあわせですか?
願わくは君の眠りが安らかなることを−2−
ほとんど音もなく、再び食堂のドアが開く。
今度現れたのはライルだった。
彼もまた、アレルヤやティエリア同様、食堂の異様な雰囲気に目を丸めた。

「なんだぁ、コレ」
「刹那の幸せについて考えてたトコー」

クリスティナがそう言うと、ライルはますます顔をしかめた。
フェルトが丁寧にそれまでのことを説明して、ようやく納得の表情を見せた。


「なんか、情けないねー」

クリスティナが、ぽつりと言う。

「あたしらさ、刹那ともう何年も付き合ってんのに、なんだかんだ何にもわかってないんだね」
「仕方のないことだ、守秘義務だってあったのだから」

クリスティナを慰めるように、ティエリアが言う。
その言葉は確かに優しさのあるものだったが、それでも食堂の空気はどこか沈んでいた。
それを払拭させたのが、ライルの言葉だった。

「愛されてんなぁ、アイツ」

皆、目を丸めてライルを見た。

「だってそうだろ。誕生日一つ祝うのにこんだけ悩まれてよ。
普通ないぜ、誕生日のこと考え初めて、そいつの幸せについてまで話が飛んじまうなんて」

それは別に、皮肉でもなんでもなく、ライルの素直な感情だった。
皆が皆、一人の仲間の為に、こうして頭を捻らせている。
付き合いの比較的短い、第三者としての視線から見れるライルからすれば、なんとも微笑ましいことだ。

ライルの言葉に、少しだけ食堂の雰囲気が変化した。
その時、また食堂に一人姿を見せた。
今度は、ニール。

「なんだ、みんな集まって。刹那の誕生祝いの計画でも立ててたのか?」

今日が刹那の誕生日だということを理解しているニールは、クルーが集まっているのを見てそう言う。

「その予定だったんだけどねー」
「どうも行き詰ってるっス」

クリスティナとリヒティがそう言えば、ニールはきょとん、という顔をした。

「ロックオンはさぁ、どう思う?刹那の、幸せについて」
「…またずいぶん話が突飛してんだなぁ」
「なんだか、考え始めたら止まらなくなっちゃったの」

話のきっかけを作ったフェルトは、皆をここまで深く考え込ませてしまったことへの罪悪感からか、少し影を落としていた。
もちろん、他のクルー達はそんなこと微塵も気にはしていない。
そんなフェルトの頭を優しく撫でながら、ニールが椅子に腰を下ろす。

「ね、ロックオンはわかる?刹那の、幸せ」
「んー…そうだなぁ。これは、俺の勝手な考えだけど、さ。
たぶん、アイツは自分で見つけると思うんだ、自分の幸せ。
例えどんなに周りが、アイツは不幸だ、不憫だ、って思っても、きっと刹那はその中で、 自分にしかわかんない幸せを見つけるんだろうなぁ、と、俺は、思う」

なんてな、と少し照れくさそうに、ニールが笑う。
皆どこかすっきりとした顔をしていた。

そうだ、きっと刹那は、そういう人間だ。
苦しい中を生きてきたからこそ、きっと彼は、彼の幸せを見つけ出すことが出来る。

「で、誕生祝いやらねぇの?」

ニールが、思い出したように言うと、また少し食堂の空気が沈む。

「刹那が一番ほしいもの、あげたいって思ったの。でも、思いつかなくて…」

フェルトが言う。
ニールは、苦笑いを浮かべた。

「それで幸せがどうたらって話になったのか。
いいじゃん、やろうぜ誕生日祝い。アイツ自分で自分のこと祝ったりなんか絶対しないんだから、
俺らで祝ってやらないと」
「そっか。そうよね。刹那なんて自分のために何かするなんて絶対ないんだから、 あたし達の方でしてやらなきゃ、もったいないわ」

ニールの言葉に、クリスティナが賛同する。
他のクルーも、頷いた。

その時だ。

『トレミーの皆さんにお知らせですぅ!これからセイエイさんの誕生日会を行うです!
皆さん、ブリッジに至急集合ですぅ!』
『あ、でも刹那は少し遅れて来ること!いいわねー?』

なんとも陽気な最年少オペレーターと、戦術予報士の声が響く。
食堂の面々は、そのアナウンスにしばらく呆気に取られて、それから、一斉に吹き出した。

「何よもうー!散々考えて損しちゃったじゃない!」
「ほんとっスね。なんか、気が抜けたっス」
「いつの間に準備してたんだか」

クリスティナもリヒティもラッセも、笑って言う。
フェルトも、少し安堵を含んだ表情を見せた。
ティエリアは呆れたようにため息を吐いていたが、満更でもなさそうだった。
アレルヤとライルは、苦笑いしていた。

「さぁて」

ニールが、言う。

「そいじゃ、行くとしますかあの効かん坊の生誕を、祝いに!」

皆立ち上がって、食堂を後にした。
ブリッジのスライドドアが開くのとほぼ同時に、クラッカーの激しい音が鳴る。
呆気に取られた様子で、刹那は、入り口に立ち尽くした。

「誕生日おめでとう、刹那!」

皆、口を揃えて、彼がこの世に生を受けたことを歓喜した。
当事者である刹那と言えば、未だ目を丸め、ブリッジの入り口で突っ立ったままだ。
あまりの反応のなさに、一同は彼の顔を覗きこんだ。

その時だ。
刹那が、吹き出したのは。

「まさか、ほんとにやるとは…。ミレイナのあのアナウンスで、馬鹿なとは思ったが…」

肩を揺らし、顔を綻ばせる刹那を見て、クルーは皆、ひどく嬉しそうに笑った。

「当たり前でしょー!あたし等がアンタの誕生日逃すと思ってるの?」
「そうっスよ!」
「考えが甘かったな、刹那」

クリスティナとリヒティ、ラッセの三人は、入り口に立ったままの刹那を輪の中に引き寄せる。

「刹那」

刹那は、声を掛けたフェルトに視線を向ける。

「誕生日、おめでとう。がんばって生きてくれて、嬉しい」

フェルトの言葉に、刹那は優しい表情を見せる。

「あぁ、ありがとう」
君が今ここにいることが、君にとってしあわせでありますように!
09.04.11

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刹那はぴばでした。
みんなに祝ってほしくてすごく無理矢理なことしました。