大好きな貴方へ。
この蕾が咲いてそして枯れても、ぼくはきみの傍にいたい−6−
あの日から、刹那とライルの関係は少し変化を見せた。
刹那はライルを以前のようにあしらわなくなったし、そんな刹那に、ライルは嬉しそうに笑った。
周りはそんな二人の変化に気付くことはなかった。
それくらい、微々たるものだった。
元より、そんな変化に気付けるほど、艦内が和やかな空気には包まれていなかったのもあった。

たった一人を除いて。
刹那が食堂に入ると、一人だけ、既に食事を取っている人間がいた。
フェルトだった。
フェルトも刹那の姿を確認すると、少しだけ微笑んだ。
刹那は何も言わずに、フェルトの隣に腰を下ろした。

「やっと休み?」
「あぁ、フェルトもか」
「うん、ブリッジにはミレイナがいてくれてるから」

刹那は「そうか」、とだけ返した。

他愛のない会話。
だがフェルトは、それまであった柔らかな表情をいつの間にか消していた。

「ねぇ刹那」

刹那は、視線をフェルトに向けることで返事の代わりにした。

「わたしはね、刹那がいいなら…それでいいの」

そうフェルトが言うと、刹那は目を見開いた。
何のことを言われているのか、一瞬わからなかった。
フェルトはそれに気付かず、言葉を続けた。

「この間ああしたのは、刹那が嫌がっているように見えたから。もちろん、わたしも嫌だったけど。
でももし刹那がライルのこと、嫌でないなら…」

その名前を出されて、ようやく、理解した。

確かにルイスが死んでからライルのことをどこか許しているのは、自分でも理解していた。
元より慰めてもらった人間を邪険に扱うほど落ちぶれていないつもりだった。

けれど。
けれどフェルトにそこまで言わせるほど、受け入れているつもりなどなかった。
受け入れてはいけないと、許してはいけないと思っているのに。

刹那は、抑えていたつもりの自分の感情がまるで抑えられていないことに、静かに衝撃を受けた。


「刹那…?」

フェルトはようやく、刹那の様子がおかしいことに気付いた。
否定するように、頭を振っていた。

「違う、違うんだ、フェルト…。…すまない」

フェルトの想いも踏みにじったことも、許せなかった。

「ごめん、違うの。そうじゃない」

フェルトは、そんな刹那に対して必死で否定した。
痛いくらいに刹那の気持ちがわかった。

「ちゃんと、わかってるから。刹那はロックオンのこと絶対に忘れない。
…でもね、最近思うの。きっとロックオンは、刹那が幸せになることを望んでるんだろうなって」

しあわせ、なんて。
そんなもの。

「わたしもね、刹那に幸せになってほしい。
ロックオンの分まで、幸せになってほしいの」

自分には最も、ふさわしくない言葉だ。

「刹那は自分の気持ちに素直になっていいと思う。
もっと、自分を許してあげていいと思う」

「ありがとう…」

絞り出すように、なんとかそれだけ言った。
許してなどいけないのだ。

フェルトの言うとおり、未だロックオンを、ニール・ディランディを忘れることなど出来ていない。
想いすら、そのままだ。
だがだからこそ、許されるはずがないのだ。
ライルを受け入れることも、そして、ライルに、受け入れられることも。
幸せになる資格のない自分の幸せを願う少女の想いが、やさしくて、でも、つらかった。
(ねぇ、どうしたらいい?)
09.03.08


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