そんなつもりで、好きになったわけじゃないよ この蕾が咲いてそして枯れても、ぼくはきみの傍にいたい−2− ダブルオーの整備を沙慈としている最中、刹那に声が掛かる。 声の主は知っている。 だから、聞こえない振りをした。 「せーつな」 半重力を利用して側まで来られ、聞こえない振りも出来なくなって、刹那はため息を吐いた。 「何か用か」 振り向きはしなかった。 視線は相変わらず、整備用の端末の画面に向いたままだった。 沙慈は、そんな彼女の様子に目を丸めていた。 「ミス・スメラギが呼んでるぜ。ブリーフィングだってよ」 私用ではないことに少し安堵した。 「いいよ刹那、後は僕がやっておくから」 「…すまない」 刹那は昔よりも豊かになった表情を沙慈に向けて、ライルと共に格納庫を後にした。 「なぁ刹那」 「なんだ」 沙慈という青年とずいぶん違う返事の仕方に、ライルは苦笑する。 彼女の背中しか見えないから表情はわからないが、たぶん話しかけられたことに嫌悪を示している。 緋色のあの瞳が見たくて、床を蹴って刹那の前に立ちふさがる。 「どいてくれ」 「どいたら刹那行くだろ?」 「当たり前だ、ブリーフィングが、」 刹那の言葉が、途中で終わった。 ライルが静かに、壁に手を付いて彼女を追い詰めたからだった。 刹那が何も反応出来ていないのをいいことに、ライルは刹那の肩に自分の頭を預けた。 「やめ…っ」 「せつな」 低い、でも甘い、声。 それに、刹那は抵抗が何一つ出来なくなった。 「やめろ…」 なんとか、それだけ絞り出した。 震えていたかもしれない。 「じゃあ、殴ってでも何でも、離せばいい。なんで、そうしない?」 「…っ」 卑怯だと、思った。 この男は知っている。 自分にとってライル・ディランディは、殴り飛ばせるような存在ではないということを。 知られて、しまっている。 「やめて」 凛とした声が、二人の間に入った。 いつの間にか刹那は、ライルから離されていた。 護るようにしてライルとの間に入った彼女を、刹那はただ見るしかなかった。 「フェルト…」 射るような視線を、フェルトはライルに向けていた。 彼女が、普段あまり見せない表情だった。 「入ってこないで。混乱、させないで。ロックオンと刹那の間は、貴方が入ってこれるほど軽率なものじゃない。 壊そうとしないで」 フェルトは知っていた。 ニールと刹那が、どれほどまでに相手を大切にし合っていたか。 壊れ物にでも触るような、でも、ほんとうに、慈しむような。 フェルト自身がニールと刹那を大切に想っていたから、余計にそれがよくわかった。 だから、その間に入り込もうとするライルの存在が、どうにも許すことが出来なかった。 「いいんだフェルト、もういい」 「刹那、でも…」 宥めるように肩に手を触れ、刹那が言う。 フェルトに、そんな顔させたくなかったし、そんなこと言わせなくはなかった。 刹那に言われ、最後の抵抗、と言わんばかりにライルにまたきつい視線を送った。 「行こう」 刹那の手を引いて、その場を後にする。 刹那は、フェルトに気付かれないように、ちらりとライルの方を見た。 それに気付き、苦笑する。 フェルトの言葉を思い出す。 『壊そうとしないで』 刹那の肩に触れた額に手を置いた。 彼女に触れているような気になった。 苦笑いを、浮かべた。 「そんなんじゃ、なんだけどな」 ぽつりと呟いた言葉は、簡単に消え去った。 知ってるよ。大事だったことなんて。 09.02.14 |