惹かれていたんだ、

初めて会ったときから
この蕾が咲いてそして枯れても、ぼくはきみの傍にいたい−1−
「刹那」

呼ばれ、振り返る。
そこには、自分がよく見知った人間、によく似た人物。
大地の色の髪も、空の色をした眼も、自分を呼ぶどこか甘ったるい声も、どこも同じなのに、全く、違う人間。
救いといえば、「彼」は袖を通したことのない制服を、その人が着ていることだった。

「なんだ」

刹那は淡々と答えた。
出来れば、あまり関わりたくはなかった。

「メシ、一緒に食おうと思ってさ」

刹那のそっけない返答をさして気にしてない様子で、ライルがそう言う。

「悪いが一人で行ってくれ。イアンに呼ばれている」

嘘だった。
ただ単純に、この男と一緒に食事を取りたくないだけだった。
ライルはそれを信じたのか、「じゃあ仕方ないな」と苦笑いを浮かべていた。


刹那は、ライル・ディランディという男が苦手だった。
自ら勧誘しておきながらそう考えてしまうのも失礼なものだったが、苦手なものは苦手だった。
別に、「彼」を、ニール・ディランディを思い出すから、というわけではない。
確かによく似てはいるし、多少なりとその外見に惑わされることもあるが、全くの別人だ。
しかしその「全くの別人」という事実が、刹那にとっては重く感じられていた。

「せつな」

その場を後にしようとした刹那を、ライルがまた呼ぶ。
先ほどよりも、ずっと耳に響く声で。

「好きだよ」


刹那は、ライル・ディランディという男が苦手だった。
それは、かつて失った大切な彼と同じように、自分に対して好意を抱いてくれているから。
近づけたくはなかった。
また失って、悲しみを味わうのが、怖かったから。


刹那は振り返らずにその場を後にした。
振り返っては、いけないと思った。
ライルが刹那に想いを告げたのは、これが初めてではない。
もう何度言ったか、おそらく本人ですらわかっていないだろう。
事あるごとに、ライルは刹那に告げた。

「好きだ」と。


ライル・ディランディが刹那・F・セイエイという一人の女性に好意を抱いたのは、誓って軽い気持ちからではなかった。
彼女は、この艦の人間でただ唯一、彼を「ライル・ディランディ」という一人の人間として接してくれているからだった。
どちらを向いても、兄である「ニール・ディランディ」を求める視線にぶつかる。
「ニール・ディランディ」とは違うことに、落胆される。
仕方のないことだとわかっていても、やはりつらいものがあった。

けれど彼女は、最初からライルとニールとを別物だと割り切っていた。
彼女自身が自分を勧誘してきたのだから当然と言えば当然かもしれない。
だが、それがライルには救いだった。


彼女が兄と特別な関係にあったことは知っている。

だからこそ、なのかもしれない。
だからこそ刹那はライルに対してニールの影を追わず、ずっと兄だけを想っている。
兄の創りたかった理想だけを追い、まっすぐ、ただまっすぐ、前を見据える。
それが余計に、ライルを強く惹き付けた。
彼女の眼が、好きだった。
それを伝えたくて、知ってほしくて、ライルは刹那に幾度も告げた。
刹那が、それを快く思ってないとわかっていても。
叶わぬ想いだと知っている。
叶わなくていい想いだと、思っている。
09.02.13

title by=テオ


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