だって、約束したから。
小花柄スカート
「刹那、明日時間ある?」

刹那が食堂で一人食事を取っていると、フェルトがそう声を掛ける。
彼女がそんなことを言うのは珍しいので、刹那は思わず目を丸めた。

「あるが…何故だ?」
「ちょっと、付き合ってほしくて」

フェルトは笑ってそう言うだけだ。
具体的な内容がないだけに疑問は消えなかったが、言ったとおり明日は空いている。
というよりかは、世界情勢も今のところ落ち着いているから、個人的な用事が普段それほどない刹那は、
言ってしまえばいつでも暇なのだ。

「じゃあ、明日ね」とそう言って、フェルトは食堂を後にした。
食堂に一人残された刹那は、小首を傾げるだけだ。
町の付近にプトレマイオスを一度降ろしてもらって、それから車を乗り継いで大きな街に向かった。
その間刹那がフェルトに今日の詳細を知らされることはなかった。

「何をするつもりだ?」
「買い物」
「…買い物?」

「そう」と、フェルトは笑った。
刹那はただ目を丸めるだけだ。
まさか、自分を連れてまで来た用事が買い物だとは思わなかったからだ。

「…買出しか?」
「ううん、違う。買い物。服、欲しくて」
「…服」
「うん」

意外、といえば意外だ。
フェルトの口からそんな言葉を聞くのはほとんどなかった。
だから、失礼とは思いつつ驚いている。
フェルトは、そんな刹那の様子を気にすることもなく、ショッピングモールの店を回り始めた。
「うーん…」

眉を寄せて唸るのは、フェルト。
先ほどから何着もの洋服を刹那に当てているが、どれもぴんと来ないようだった。

「…自分のはいいのか」
「自分のも買うよ。でも刹那のも買いたい」
「俺は別に…」
「ダメ。そんなんじゃロックオンがっかりするよ」

宇宙で散った彼が本当にがっかりするのかはちょっとした疑問だが、フェルトがあまりに真剣だったものだから、
刹那も何も言わなくなった。
それからまた色々店を回ったが、やっぱり自分の感覚でこれだというものにはめぐり合えなかった。
ショッピングモールの中央の広場で、足を休める。
お互い慣れない場に長くいたせいで、どことなく心労が大きかった。
フェルトが一つため息を吐く。

「難しいね、服を選ぶのって。クリスはすごい」
「そもそも二人だけで選ぼうというのが無謀だったかもしれないな」
「…ライルとか、連れてくればよかったかな」
「やめておけ」

くすくすと、フェルトが笑う。


「…何故」
「え?」
「何故、買い物なんだ。しかも、俺と一緒で」

フェルトは、少しだけ哀しそうに笑って言った。

「クリスがね、言ったの。『おしゃれにもう少し気を遣え』って。
…刹那が一緒なのは、一緒におしゃれになってほしかったから、かな。
せっかく女の子なんだし。きっと、刹那がおしゃれしたらロックオンも喜ぶと思って」


それは彼女の最期の言葉だった。
最期の最期までフェルトのことを気にかけた、彼女の言葉。
フェルトは、それをきちんと胸に納めていた。
刹那を連れたのは、自分と同じくらい着飾ることに無頓着な彼女も、女に生まれたことの喜びを
一緒になって感じたかったから。


刹那は、自身の胸が温かくなったのを感じた。
フェルトをとても優しい人間だと思った。
そしてその手伝いを、してやりたいとも思った。


ふと視線をずらす。
目に入った一つの洋服に、ぴんとくるものを感じた。

「あれがいい」
「刹那?」

立ち上がり、それに向かって真っ直ぐに進む。

刹那が見つけたのは、小さな花柄のスカート。


「…着るの?刹那」
「違う。お前に、いいと思った」

フェルトは少し驚いたような顔をして、それから微笑んだ。
スカートを手にとって、当てた。

「似合う?」
「似合う」
「派手じゃない?」
「プトレマイオスが明るくなる」

刹那がそう言うと、フェルトが笑った。

「刹那ばっかりずるい。わたしも刹那の、選びたい」
「じゃあ、頼む」




見ててね、きっと貴方の思いを形にするから。
09.05.26 日記掲載

title by=テオ
 

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フェルトがクリスの言葉を大事にして、せっちゃんと一緒におしゃれに勤しんでたら
微笑ましいと思った。