仕方がない、なんて風には思いたくはないけれど。
平気だよ、と目元を赤くして−1−
「え、飲み会?」



電話越しに耳に入る愛しい恋人の声で紡がれた言葉は、胸を痛めなければいけない内容だった。

『あぁ、急に学科の人間とすることになった。出ないと後がひどいとまで言われてな…』

そう言う刹那の声は、どこかうんざりしているような口調だった。


最近ニールの仕事が忙しく、刹那もバイトだの何だのですれ違いが続いた。
それもようやく落ち着きを見せ始め、久しぶりに会うことが出来る、と思った矢先の刹那からのこの電話だった。
しかも明日は休みだ。
時間を気にせず、ゆっくりと二人で過ごせると、内心、胸を躍らせていた。

『出来るだけ早く切り上げて帰るつもりだ、』
「や、いいよ」
『…は?』
「だって刹那普段そういうの絶対出ないだろ?せっかくだから楽しんで来いよ。
会おうと思えばいつでも会えるんだから、さ」
『おい、ニール』
「じゃ、もう休憩終わるから」

そう言って、一方的に電話を切った。
刹那が何かを言いかけたのがわかったけれど、今となってはもう聞こえることはない。



会いたかったのは本音だ。
行かないでと言ってしまいたかった。
けれど、自分はオトナだ。
プライドとか、そういう問題じゃない。
刹那はまだ21だ。
やりたいことだって沢山あるだろうし、学生として果たさなければいけれない課程だってある。
それは学業に止まらない。
友人付き合いだってある意味大切な仕事の一つだ。
刹那は元々あまり人付き合いというものが得意ではない。
それを承知の上で誘ってくる友人というものを、大切にしてあげたいと、勝手ながら思っているのだ。
刹那の気持ちを無視しているものであろうが、どんなエゴであろうが、それはニール自身が望んでいることだった。



「…って、思ってるのに落ち込むのね」

デスクに突っ伏すニールに、苦笑いを浮かべながらスメラギが声を掛ける。

「…だって…二週間会ってない…」

二週間だ。
もう、彼と会わなくなって。
これが切ない以外の何であるか。
けれど本音を言って、後で後悔することなど目に見えている。

そんなニールを見て、スメラギは苦笑いを浮かべたままため息を一つ吐いた。

「仕方ないわねぇ、じゃあそんなニールに楽しい場を設けてあげるわよ」
「…飲みは、行かな、」
「今日夜飲み会行きたい人挙手ー!」

ニールの拒絶の言葉を丸々無視して、スメラギが室内に響く声を上げる。
翌日が休日ともあって、次々と手が挙がった。

「ニール君も行くのであろう?ならば私が出席しないわけにはいかないな」

そう言って嬉々として手を挙げたのは、ニールの上司である、グラハム・エーカーだった。
彼は、ニールに想いを寄せる男の一人だった。
もちろんニールは相手にはしていない。

「や、今日は…」
「行きますもちろん行きまーす」

スメラギは無理矢理にニールの手を持ち、挙げさせる。
そんなスメラギの行動に、ニールはまさにげんなり、という表情を見せた。
ただ単に自分が飲みたい都合の言い訳にされた気がして、ならなかった。



げんなりとした気持ちのまま、飲み会の場となる居酒屋へ足を運ぶ。
今頃刹那は、同級生と楽しく飲んでることだろう。
同級生。
その感覚に、また気持ちが沈む。
わかりきっていることだが、当然、自分よりも、若くて、可愛らしい。
刹那のことだ、きっと学科内で人気だってあるのだろう。
囲まれている姿を考えるだけで、憂鬱になる。


居酒屋に到着し、入ろうとしたところで別の団体と鉢合わせになる。
見たところ学生のようだ。
あぁ、いいな若いって。
そんな風に思っていたが、途端、思考が止まった。

だって、いたのだ。
その団体の中に、今日会う予定だった、愛しくてたまらない、恋人が。

刹那もニールの存在に気付いた様子で、目を丸めていた。
なんてことだ。
よりにもよって、こんなところで鉢合わせになるなんて。

「おやニール君?どうかしたのかい?」

動きが止まったニールを不思議に思い、グラハムが声を掛ける。
そこでようやくニールの止まった思考が動いた。

「あ、いや、何でも…」

思わず、そう言う。
同僚達は別段気にする様子もなく店に入って行った。

「そうかい。では私達も行こうではないか」

ぐい、と肩を引き寄せられる感覚に、焦りが生まれる。
この男はニールと刹那が知り合いであることすらおそらく知らないだろう。
だから、これはたまたまで、グラハムの過剰なまでのスキンシップだ。
けれどよりにもよって、刹那の前でやることはない。
肩に置かれた恋人のものではない男の手に、ニールは嫌悪感すら感じた。

ちらりと刹那を見た。
視線がかみ合った。
どこか、怒っているような眼だった。

「刹那、どうしたの?」

店の入り口で、刹那を呼ぶ可愛らしい声が耳に入る。
見れば、やっぱり可愛らしい女の子が立っていた。
髪がピンクと少し独特だったが、似合っている。

「…いや、なんでもない」
「そう?皆もう入っちゃったよ。行こう?」
「あぁ」

お似合いっていうのは、ああいうのを、言うんだろうなと思った。

グラハムに肩を引かれたまま、店に入る直前にまた刹那を見た。
今度はもうこちらを見ていなくて、胸がずきりと痛んだ。
09.05.03 日記掲載

title by=テオ


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こんなところでグラハム初書き。
口調間違ってませんか?汗。