ただ、求めるだけ くだらない話 「おもしろいよなぁ」 何の突拍子もなく、隣にいる男が感慨深そうにそう呟く。 疲労からまどろみ始めていた意識は、それで覚めてしまった。 そもそもこの男の言うことはいつも突然すぎるし脈絡がなさすぎる。 理解に苦しむのに返事をしなかったりすれば、つまらなさそうに向こうの方から構ってくる。 面倒な男だ。 小さく、相手に気付かれないようにため息を吐いてから、刹那は壁側に向けていた身体をもぞもぞと反転させた。 身体を動かすと、腰に鈍く痛みが走った。 「何がだ」 ベッドの上で壁に背を預けて座る男を下から覗いてそう言えば、返事をしたことに少し顔を緩めていた。 衣服を何も身に付けず、さらされた彼の白い肌は相も変わらずきれいなものだ。 「この世界に人間なんて溢れ返るほどいるだろ。人種も色々で、国の数だけ文化があって、それは全部同じじゃない。 なのに、セックスのやり方は、全部一緒だ。 裸になって触れ合って、それで、一つに繋がる。 ある意味、すごいよな。頭が勝手にわかってるんだ。どうすれば欲を吐き出せるのか、どうすればお互いにとってよくなれるのか」 何を言い出すかと思えば。 この男は、本当に突拍子もないし、下らないことを口にする。 「…お前、そんな面倒なことを考えながらしているのか」 「いや、考えながらはしてねぇけど。…考えたことねぇ?」 「ない。どうでもいい」 そう言って、刹那は再び壁側を向いた。 返事なんかするんじゃなかった、と心の中で悪態をつく。 人種がどうだとか、セックスのやり方がどうだとか、刹那にとっては考える必要もないことだ。 この男の考えることは全く持って理解出来ない。 もう寝てしまおうと、目を閉じた。 しかし、そんな刹那の考えを遮断するように何かがこめかみに触れる。 目を開いて少し身を捩れば、男の顔がすぐ目の前にあった。 先ほど触れたのは彼の唇だったらしい。 何も言わずに、再び唇を落としてくる。 今度は、刹那の唇に。 軽く触れてすぐに離れたが、刹那がそれに応えるように自分から唇を合わせた。 離れないように、男の手が刹那の後頭部を抑えた。 言ったことなんかなかったが、この男の手が、刹那は好きだった。 「ん、ふ…」 徐々に深くなる口付けに、自然に刹那から声が漏れる。 じく、と下腹部が再び疼き始めたのがわかった。 唾液が絡む水音が耳を刺激する。 「…っふ。んんっ!?」 男の、空いている方の手が下腹部に触れる。 突然の刺激に、思わず声が上がった。 くちゅり、とすっかり潤いを取り戻した音がして、それが余計に身体を熱くさせた。 唇が離れると、名残惜しそうにどちらのともわからない糸が引いた。 欲しい、と自分の身体が言っているのがわかった。 「せつ、」 「…そんな面倒なことを考えるより、お前を感じている方がいい」 頭で考える暇なんてない。 だって、そういう為の行為ではないだろう。 お互いの身体を感じて、繋がって、欲を吐き出す。 本能の行動だ。 突き詰めていってしまえばセックスなんて、人間が自分の種を残していく為の行動に過ぎない。それに快楽が伴っているだけ。 それを頭でいくら考えても無駄なだけだ。 そんな余裕があるなら、欲に溺れてしまいたい。 お前が与えてくれる快楽に、酔ってしまいたい。 刹那の言葉に少し瞠目した後、男は口角を上げて笑った。 「かわいいこと言っちゃって。後悔したって知らねーぞ?」 何でもよかった。ただとにかく、この男を感じたかった。 鳴りを潜めていた欲求は、完全に表に出てきたようだった。 後悔なんてしない。 それを伝えるように刹那は再び唇を重ねた。 それを、男も享受した。 「俺はさ、刹那。嬉しいんだよ」 何がだ、と言葉にはせずに目で言った。 男はゆるりと目を細め、穏やかな顔をした。 「人種も、文化も生きて来た環境も何もかも違うのに、俺達が一つになれる方法は同じなんだ。 何も考えなくても、本能に委ねれば同じところに辿り着く」 それって、すごいことだろ?とそう言って、新しい発見をした子どもみたいに笑った。 だから、もう何も言わなかった。 やはり面倒な男だ、と思ったが、口には出さなかった。 もう、そんな言葉を口にする余裕もなかった。 「っあ…ック、オン…っ」 人種も文化も違うこの男が与えてくれる快楽を、何も考えずに受け入れた。 どろどろに溶けて、一つになる。 そうして行き着く先は、間違いなく同じなのだ。 「…考えたことが、あるか」 「何を?」 ベッドに横たわって、情事後の疲労感とじっくり付き合った。 鼻を掠める紫煙が少し気になったが、言っても止めることはないだろうから諦めた。 「この世界には、人種も文化も違う人間が溢れているのに、セックスのやり方は一つなんだ」 いつか、あの男が話してくれたのと同じ言葉を口にした。 「…アンタ、そんな面倒なこと考えながらセックスしてんの?」 呆れたように、そう男が吐き捨てる。 刹那の胸が、音を立てて鳴った。 「くだらねー。んなこと考える暇あったら、突っ込むね」 そう言って、刹那の唇にキスをした。まるで噛み付くようなそれだった。 男の煙草の味のする舌を受け入れながら、全くその通りだと思った。 考えるより、先に本能に従った方がいい。 その考えは、昔から何一つ変わらない。 ただ、男が刹那の言葉を否定した時胸が音を立ててなったのは、あの男と真逆の考えだったことに対する安心か、それとも、失望か。 どちらにしろ、今の自分達が辿り着く先が同じでないことは、確かなのだ。 (あの、子どもみたいに笑った男からは、もう何も与えてはもらえない) 10.07.04 日記掲載 ――――――――― うぅん、不完全燃焼…。苦笑。 久しぶりにライ刹♀書きました。 わたしがライ刹を書くと糖度ゼロです。 最近、ニル刹♀ライアニュ前提のライ刹♀にも少しハマってます。(昼ドラ状態 |