時々晴れ間を見せるこの空が、アンタの色にとてもよく似ているんだ わたしを生かすあなたの指先−2− 最初は、とても面倒な男だ、と思った。 いくら無視をしても構ってくるし、どんなに拒絶の意志を見せても触れてくる。 本当に、最初はそれこそ嫌悪していたほどだ。 いつからだったのか。 この男が声にして呼ぶ自分のコードネームが、ただの記号でなくなったのが。 この男が触れてくる感覚が、とても心地いいものだと思ってしまったのが。 温もりに心地よさを覚えたら最後、もう離れられないのだと知ったのもこの時だった。 ぬるま湯のようなこの感覚がなくなってしまうことを考えると、空虚を感じるようになってしまった。 「ん…っ」 大きな手に、包まれるようにして乳房を揉まれ、刹那は小さく声を上げた。 こんな、取って付けたようなものでも感じるのだと、どこか冷静に考えた。 それは、彼の何にも覆われていない手によってもたらされる快感だった。 触れてくる指一本一本が熱を帯びていて、手袋も何も付けない素肌なのだと考えるたびに身体が熱くなった。 「ぁ…っ」 胸の頂に唇を寄せられ、刹那は声を漏らした。 それが存外高いもので、自分で驚いた。 "女"のようなそんな声が、自分から出るなんて思わなかったものだから、羞恥心が一気に襲ってきて、刹那は思わず口元を手で覆った。 だがロックオンがその行動をやめることはなく、むしろ執拗にすらなって来ていた。 ロックオンの舌が胸の頂を行き交うたびに、下腹部に熱が籠もった。 「…ック、オン…っ」 留まらない疼きをどうにかしたくて、絞り出すようにロックオンの名前を呼べば、彼はようやく顔を上げた。 どこか満足そうな表情を浮かべて、ロックオンは刹那に視線を合わせる。 彼の額にしっとりと付いた汗が、彼自身の熱を物語っていた。 「声、出せって」 「、な…」 ロックオンがそう言うと、刹那は言葉を失った。 恥ずかしさで死ねとでも言うのか。 戸惑いを隠せない刹那の耳元に、ロックオンは顔を寄せた。 「俺が、聞きたい」 ――あぁ、卑怯だ。 甘ったるい、けれど、低くて身体の芯にまで届くような声だ。 刹那はその声にふるりと身を震わせて、それからゆっくりとロックオンの首に腕を回した。 顔が近付くと、自然に唇が重なった。 深くて、熱かった。 角度を幾度も幾度も変えて、互いの舌を絡ませ合って、どちらのともわからなくなった唾液が刹那の顎を伝った。 短く繰り返される呼吸と水音が、部屋に響いた。 何も考える必要がなかった。 ただロックオンが与えてくれる熱を受け入れればよかった。 それだけで何もかも満たされた。 繋がる、ということがこれほどまでに身体を熱くするものだとは思わなかった。 何も身に纏わないで、触れて、本能のままに欲を吐き出すということは、昔されたことと何一つ変わりないのに。 触れてくる指や、耳に届く荒い息遣いや、自分の中で律動を繰り返す猛った中心が、熱くて。 熱くて、どうしようもなく逃げ場のない快感に、溶けてしまいそうで。 何も考える必要がなくて、何も考えられないのに。 ただ、どうしようもなく泣きそうなのは、アンタがまるで、壊れ物を扱うみたいに俺に触れてくるから―――。 「あ…っ。あ、あぁっ」 「…っく、はぁっ。…っつな、せつな…っ」 この男の全てを奪った組織の一員だったのに。 色んな人間の色んなものを壊して来た存在なのに。 銃を持つ重みも、漂う死臭も、全部残ってるのに。 こんな風に触れられる権利なんか、あるはずがないのに。 それでも、分け与えられる熱を、今さら拒めるはずもなかった。 愚かしくて、いやらしくて、そんな自分に反吐が出そうだった。 でも、初めてだった。 こんな風に泣きそうになったのも。 与えられた識別コードが耳を熱くさせたのも。 "女"に産まれて、よかったと、思ったのも。 「、クオン…っ、も…ぅっ」 「ん…っ俺も、イきそ…っ」 繰り返す律動に、先に達したのは刹那だった。 声にならないような声を上げて、ビクビクと身体を揺らした。 その後すぐに中に熱が吐き出されたのがわかって、ロックオンが達したというのも数瞬遅れて理解した。 ビクリビクリと、ロックオンの中心が自分の中で脈打っていて、その感覚にまた身を震わせる。 それまで室内を占めていたベッドが軋む音は完全に消え、ただ激しい息遣いがするだけだった。 ロックオンはしばらく刹那の中から自身を抜こうとはしなかった。 ただ優しい手付きで刹那の髪や頬や胸に触れていた。 時々顔を寄せて、そのままキスをした。 その仕種に、刹那はまた泣きそうになった。 そんな風に触れられると、勘違いをしてしまう。 自分が、大切にされていい人間だと。優しくされる権利があるのだと。 とんでもない勘違いを、してしまいそうになる。 けれど、今の刹那にロックオンの手を振り払う勇気はなかった。 触れられなくなる空虚を感じ、一瞬でも彼の傷付いた顔を見ることになる。 それは、嫌だった。 だから、ただ受け入れた。 優しく触れてくる指や手や、唇を。 今だけだ、と頭の片隅で警告を鳴らしながら。 ただ、壊れ物に触れるような優しい手付きに、ゆっくりと目を閉じた。 「ソランー!」 家の中から、声を張り上げて自分の生まれ持った名前を呼ぶ子どもの方を向く。 久しぶりに青空が射したから洗濯物を庭に干していたが、その手を止めた。 「どうした」 「シリル起きた!泣いてるー」 子ども達の中では最年長の少女がそう言うと、なるほど、耳に届く分には小さいが、その激しさを物語る泣き声がする。 「わかった、今行く」 洗濯物が入った籠を手に持って、家の中に入ろうとしたが、ふと足を止めた。 視線を上に向けると、鮮やかな空色が目に入る。 彼の、瞳の色だ。 一年前、全て失って、もう自分も終わりにしようと思った。 あの男が散ったのと同じ場所で、全部を終わりにしたかった。 なのに、アンタがあんな風に触れたから。 アンタが、壊れ物に触れるみたいに、大事にしたから。 アンタが触れたこの身体をなかったことにしたくなくて、ただその一心で生きた。 そうして、命を授かったことを知った。 自分のエゴと知りつつ、アンタみたいな子どもを一人でも増やしたくなくて孤児院まがいのことを始めた。 時々、終わりにしたくなる。 手離してしまいたくなる。 けれどその度にアンタが触れて来た優しい手付きを思い出して、アンタが残した愛しい命が目に入る。 ただそれだけで、今こうやって、生きている。 生きて、いけているんだ―――。 (貴方はもういない。でもわたしが、貴方がいたことを証明して、自分も生きて行く) 10.06.28 日記掲載 11.01.22 一部改編 ―――――――― これが今のせいいっぱいです…。 これでも、がんばったんだ よぉ!!めそ。 話の流れ上あまりがっつり書きたくなかったというのもあります。 という言い訳を残します。(… |