大嫌いだ、あんな勝手な人間
嘘が闇に群がったってなにも変わりはしないよ
タバコに火を付け、煙を吸い込む。
ライルにとって何より落ち着く瞬間だ。

自室のベッドの上で腰掛けながら、壁に寄りかかってくつろぐ。
この艦では喫煙する人間などライル以外いないから、吸うのは大抵自分の部屋だ。
ただでさえ肩身が狭いのに、余計に狭くなってしまう。


ここは窮屈でたまらない。
同じ顔。同じ声。
ただそれだけ。
でも何よりもそのことが、ライルが居たたまれない視線を感じる要因になっている。

「兄」はここでずいぶん好かれていたようだった。
自分が覚えているあの人当たりのよい性格であったなら、それは当然だろう、とも思う。
悪かったな、性格が悪くて、なんて風に悪態を付きたくなる。



『ロックオン、いるか』

インターホン越しに、刹那の声が室内に響いた。

「いるぜ、開いてるから入って来いよ」

そう言えば、躊躇う様子もなく自動ドアが開く。
途端、刹那が顔をしかめたことにライルは気付いた。

「…スメラギから渡された。目を通しておいてほしいそうだ」

そう言って、手に持ったメモリースティックをライルに手渡した。
刹那の表情は、やはりどこか機嫌が悪そうに見える。

「気になる?煙」

意地悪げに、そう言ってやる。

「…ここで吸う人間がいないからな」

思っていたことを口にされて、刹那も観念したようだった。
慣れない、と素直に話した。

「兄さんは吸わないもんな。生粋のスナイパーだったし」
「…別に、関係ないだろう」

わざわざ兄のことを持ち出してきたライルに、刹那は気付かれない程度に顔をしかめる。
ライルは口を歪めて笑った。

「ショックなくせに。『ロックオン』が、タバコなんか吸ってるコトに」
「…嫌いか。兄のことが」

刹那がそう言うと、ライルは一瞬だけ目を見開いた。
そして、ひどく歪んだ笑みを見せた。

「あぁ嫌いだよ。
双子のくせに兄貴ぶって、「いい人」になっちゃってるヤツなんか」
「アイツはお前のことを気にしていた…」
「それが腹立つんだよ。たった一人の肉親だからって気にして、気にかけて。
金や車まで勝手に送り付けて。そんなんただのアイツの自己満足だ。
やられてるこっちの身になってみろよ。惨めなだけだ」

ぐ、と刹那の胸倉を掴み、引き寄せる。
刹那は何も言わなかった。

「いいか、お前らの大好きな大好きな『ロックオン』はな、ただの自分勝手な人間なんだよ!
双子のくせにちょっと早く産まれて来たからって兄貴ヅラして、家族が死んだら保護者ヅラだ。
何様のつもりだよ!」



ほんの少し。
ほんの数分の違いで、「兄」と「弟」にわかれた。
兄は「兄」でなければいけない、と色んなものを守ろうとした。
「いいおにいちゃん」になろうとした。
自分はいつの間にか守られる人間になってしまった。

ほんの、少しの違いだったのに。


「勝手なんだよ!
勝手に金送ってきて、人には学校行かせといて、自分は人殺しだ。
勝手にいなくなって、勝手にテロリストなんかして。何の相談もしないで!
仕舞いには勝手に逝きやがって…!」

刹那の服を握り締める手は、いつの間にか震えていた。

「双子だぜ?ほとんど違いなんかなかったんだ…!
一緒に産まれたんだ、一緒に育ってきたんだ。

なのになんで…なんで勝手に先に逝くんだよ…!!」


ぽたりぽたりとシーツに染みが出来ていった。
ライルは刹那の胸元に顔をうずめて肩を震わせた。

刹那は、ライルの頭を優しく撫でた。
幼子をあやす様に。
大嫌いだ。
ちっとも頼ってくれなかった、アイツのことなんて。
09.04.29 日記掲載

title by=テオ

―――――――
兄コンプレックスな弟。
なんで双子なのに俺ばっかり守られてんだ?
なんで頼ってくれないんだ?
なんで何にも相談してくれないんだ?
俺だって、ニールのこと守りたいのに。

いつの間にか歪んだライルのニール愛。
ライニルじゃないよ!
兄弟愛だよ!