世界でたった一人の貴方 レイン・ディ 雨が降っていた。 この日は、いつも雨が降っていた。前日がどんなに快晴でも、だ。 いつだったかライルの方が先に気付いた。 「なんでいっつも雨なんだろうなぁ」 15年前のあの日も、雨が降っていた。 白いビニール傘を二人差して、何も言わずに目を瞑ってそこに並んで立った。 一年に一度繰り返される、祈りの儀式。 どちらからともなく目を開いて、少しだけ空気が緩む。 二人の視線の先に、十字架を模した墓石が一つ、あった。 雨は緩やかな降りだった。 しとしとと、静かに降り続けていた。 「15年、か…」 ぽつりと、ニールが言う。 口にすれば簡単なそれは、決して二人にとって平坦な日々ではなかった。 雨の中で「日常」が突然にして終わりを告げたことを、散々嘆いた。 やり場のない哀しみや憤りに、感情をぶつけ合った時だってあった。 幸せそうな家族像に、ひがんだ時だってあった。 「早いもんだよなぁ」 そう言ったのはライルだった。 感慨深そうに、けれどどこか達観した口調だった。 いつからこんな風に落ち着いた気持ちでここに立っていられるようになったかは、二人とも覚えてはいなかった。 5年経った頃かもしれない。10年かかったかもしれない。 今でも時々苦しいから、もしかしたら落ち着いたような気になっているだけかもしれない。 それは、誰にもわからない。 「どうなの、姉さん」 「何がだ?」 「もう30だぜ。そろそろ、将来のこと考えた方がいいんじゃねぇの?」 「…不肖の弟が心配でそんなこと考える余裕がアリマセン」 からかうように言ったライルの言葉の意味を理解し、ニールが皮肉で返した。 少しばかりの照れも見え隠れした。 「人のことばっか気にかけてないで自分のこと考えろよ。ほら、同じ事務所の子…。ちゃんと付き合ってんの?」 「あぁ、アニュー?真面目だよ、大真面目。すっげーいい女」 「…だったらいいけどさぁ」 不服そうだが、一応は納得をする素振りを見せた姉に、ライルは苦笑いを浮かべた。 「俺のことはいいから、姉さん自分のこと考えろよ。女で30は色々キツくなってくるぜ?」 「30、30って、何度も言うな…」 最近は落ち着きを見せたが、それでも年齢はいつまで経ってもニールにとってコンプレックスだ。 どんなに頑張っても年下の恋人との歳の差は埋められない。 「…それに、自分のことばっかり考えてられるほど、都合のいい頭でもないよ。どうしてもお前のことは気になる」 「…それって双子だから?それとも、残ったのが俺だったから?」 少し自嘲めいてそう言うライルに、ニールがため息を吐いた。 「テキトーでどうしようもなくて馬鹿でやんちゃで、」 ニールの口から次々に飛び出す辛辣な言葉に、ライルは苦笑いを浮かべた。 「…でも俺のこと大事に想ってくれてる、そんなお前だから、だよ」 ライルは苦笑いを消して、ニールを見た。 ニールも、ライルに視線を向けていた。 雨が草むらに当たる音だけがしていた。 ライルが、ふっと肩の力の抜けたような笑みを見せた。 ニールもそれに釣られて同じように笑った。 「帰るか。…帰って、シチューでも作って二人で食おう」 「お、いいね。刹那も呼ぶか?」 「…いいよ。今日は、二人で食おう」 「…そーだな」 墓石に二人してもう一度視線を送った。 また来年、二人で来るよ。 そうして、踵を返した。 二人一緒に手を伸ばして、繋ぎ合った。 お互いの手はとてもとても暖かかった。 「なぁ、今日久しぶりに一緒に寝ようか」 「…俺が刹那に何言われてもいいならな」 「大丈夫大丈夫、刹那はそんなことで怒ったりしないから」 二人で笑って、雨の中を歩いた。 09.10.28 日記掲載 ―――――――― 意外に難産でした。苦笑。 |