君じゃなきゃ駄目なんです。 流れ星捕獲作戦−2− 「そういえばロックオン、モデルの子見つかった?」 翌日出勤して開店準備をしている最中に、ニールにスメラギが尋ねる。 ロックオンというのはスメラギが付けたあだ名だ。 採用されてしばらくして、「貴方女の子狙い撃ちそうだからロックオンね」などと理解出来ない理由で付けられた。 それはいつの間にか定着して、職場ではもう指名すらこの名前だ。 「見つかりましたよ」 「あら、じゃあもう出来るかしらね勉強会。少し日にち早めちゃおうかしら」 「あ、いや出来れば元の日にちのままで…」 「どうして?」 スメラギがそう尋ねれば、ニールは苦笑いを浮かべた。 「見つかったけど、了承してくれてないんです」 「馬鹿ですか貴方は。それは見つかったとは言わない」 準備をしながらスメラギとの会話を聞いてきたティエリアが、そう横槍を入れる。 「いーや、見つかったの。俺はその子じゃなきゃ今回は切らないって決めたんだ」 得意げに、ニールが笑う。 ティエリアは呆れたようにため息を吐き、スメラギは少し面食らったように目を丸めていた。 「でもロックオン、その子が勉強会までにOKしてくれなかったら、どうするの?」 そう聞いてきたのはアレルヤだ。 「んー、どうすっかな。まぁ努力はするけど…駄目だったら、そのうち個人的にやっちまおうかな。 で、俺は今回はお休み、ってことで」 に、と歯を出して笑った。 「…張り切るのはいいけど、あまりしつこくしないようにね。お店の信用にも関わるし」 「わかってるって。大丈夫ですよ、ミス・スメラギ」 仕事が終わって閉店作業も済んだところで、一目散に駅に向かった。 昨日の少女が、またあの時間に通り過ぎるとは限らない。 ニールは昨日より少し早い時間に、昨日と同じ場所で立った。 目標が出来ただけ気分も楽だ。 通り過ぎる人の波を、漠然と見ないで済む。 自分が探すはあの少女一人。 一時間程過ぎたところで、足にだいぶ疲労感が溜まってきた。 まだあの少女は通らない。 少し足を休めようと、腰を下ろした。 行き交う人の流れの中で、女の子に目を動かした。 改めて、あの少女でなければいけないと確信した。 冷静に考えればたかだか職場内の勉強会だ。ショーとかではないから、そんなに神経質にならなくてもいい。 けれどニールは、どうしてもあの少女の髪を切りたいと思った。 それは勉強会云々以前の問題だった。 きっと、街で普通に見かけても、この腕は少なからずうずくのだろうなと思った。 ぼうっと人の流れを見てしばらく経った頃。 その黒髪に、再び目が釘付けになった。 まずはあの少女がここにまた現れたことに安堵した。 ほぼ同じ時間ということは、職場か学校からの帰りなのだろうと思った。 少女に向かって、ひらひらと手を振る。 少女は、ニールを見つけた途端眉間に皺を寄せ、踵を返そうとした。 「待った待った、行くなって」 「…断ったはずだ」 「残念。どうしても諦め切れなくて待ち伏せしちまった」 「…アンタの店はストーカー行為を容認するのか」 「んー、なかなか言うなぁ」 苦笑いを浮かべる。 スメラギに注意されただけに、言い返すことも出来なかった。 「な、ちょっと話聞いてくれるだけでいいんだ」 「昨日聞いた。断る」 「もうちょっと、な?俺を助ける為だと思って」 「見ず知らずのストーカー男を助けるような大きい器は持ち合わせていない」 そう言って、少女は踵を返した。 ニールは追いかけなかった。 あまり無理に追いかけても逆効果だろうし、何よりスメラギが言った通り店の信用問題に関わる。 まだ一日あるのだ、焦ってはいけない。 翌日もニールは同じ時間同じ場所で少女を待った。 だが、どんなに待っても少女は現れなかった。 やはり、敬遠されてしまったのだろうか。 まだ一日あると思って余裕を持ってしまったのがアダになったようだ。 諦めたように、一つため息を吐く。 仕方がない。今回の勉強会は欠席だな、と苦笑いする。 翌日の勉強会の日、ニールはスメラギに欠席すると伝えた。 スメラギは少し呆れたようにため息を吐いて、「仕方ないわね」と笑うだけだった。 それから一週間が経った。 ニールは時々あの駅を通っては、少女がいないか探した。 やはり自分の前に現れてくれることはなかった。 出勤して、その日の自分の予約表を見た。 昼過ぎに、新規で一人入っていた。 「セイエイ」。変わった名前だ。 店のドアが開く。 時間的に自分の客だろうと思って、入り口に足を運んだ。 従業員の一人であるクリスティナが受付をしていた。 ニールは、自分の目を疑った。 だって、あの少女がいたのだ。 どんなに頼み込んでもどんなに探してもいなかった、あの、黒い癖毛を自由奔放にしていた少女が。 「え…なんで?」 「……別に、なんとなくだ。髪が伸びたから邪魔になった。手元にアンタの名刺があった。だから予約した。それだけだ」 どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。 同時に、顔を逸らせてそれを言うのが、なんだかすごく可愛く思えた。 やっぱり自分の目に狂いはなかった。間違いなく、「ダイヤの原石」だ。 「なぁ、名前教えて」 「予約したときに言った。セイエイだ」 「じゃなくて、ファーストネーム」 「…刹那。刹那・F・セイエイ」 そうぶっきらぼうに自分の名を言う少女を、なんだかとても愛しく思った。 後から聞いた話。 刹那は、自分が三日目駅で待ちぼうけしてたのを見てたらしい。 それで、なんだか憐れになって来てやったのだと。 思わず苦笑いを浮かべたけれど、なんでもよかった。 だって今もこうして、君の髪に触れられるのですから。 09.06.02 日記掲載 ―――――――― 美容師ニールさんとせっちゃんのお話でした。 年齢が二期設定なのは、さすがのニールさんも16の女の子カットモデルに選んで しつこくしてたら変態さんだと思ったから。爆。 |