君からだからほしい。 彼は笑って言った side Lyle グリニッジ標準時では、間もなく三月三日を示そうとしていた。 刹那は自室に篭って、その時をじっと待っていた。 ここ数年はずっとそうだった。 この日が近づくたびに一人時が刻まれるのを待っていた。 待って、そして、その時刻が来るたびに、あの男を想って目を瞑った。 今年も、そうだった。 既に日付が変わってから一分ほど過ぎていた。 それが無意味であることはわかっていた。 それでも、この日が近づくたびに、あの男がこの世に存在していたことへの感謝をしたかった。 壁一枚隔てた場所にいる男の弟は今頃何をしているだろうか。 自分と同じように兄を想っているのだろうか。 そう思って、ようやく刹那はある事実に気付く。 そうだ、双子だった。 弟も、今日が産まれた日だ。 スライドドアが静かに開くと、制服を脱いで幾分ラフな格好をしている男が立っていた。 少し驚いているようだった。 当然と言えば当然かもしれない。刹那が男、ライル・ディランディの自室を訪れることなど、滅多にないのだから。 「刹那、どうした?」 「誕生日だろう、今日」 ライルは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに納得したようだった。 「何、もしかしてわざわざ祝いに来てくれたとか?」 どこか茶化すようにライルが言う。 刹那は、特に気に留めなかった。 「何かあるか、ほしいもの」 刹那がそう言うと、ライルは目を丸めた。 まさか本気だとは、といった表情である。 「えー…いや、そんないきなり言われても、なぁ」 宙を仰いだりして、考えを巡らせる。 しばらく経ったところで、ようやく「あ」と思い付いたように声を上げた。 「じゃあ、キス、して?」 今度は刹那が目を丸める番だった。 双子とは、そこまで似るものなのだろうか。 否、どこかで期待をしていたのだろう。 そうでなければ、「何がほしい」など聞く必要はないのだから。 「それでいいのか?」 「刹那からのキスなんて、きっと天然記念物より珍しいだろうからな」 「どういう意味だ、それは」 そう言いながら、刹那はつま先立ちになり、以前口付けたものとは違う、白い頬に触れた。 唇を離すと、ライルは満足気な顔をした。 少しずつ兄とは違う部分に、刹那は安心感すら覚えた。 別の人間なのだと、実感することが出来た。 「なぁ刹那。俺は、いてよかった?」 「あぁ、当然だ」 貴方にだって、救われている。 09.03.03 ――――――――― ニールさんとライルさんの生誕を祝って。 しかし甘い な…。 |