結局救えないのだと知る。
繰り返した過ち
「…っ」

触れられたそこに痛みが走り、刹那は顔をしかめた。
ティエリアは呆れたように一つ、ため息を吐く。

「幾らなんでも殴りすぎだな。君も、黙って殴られすぎだ」

湿布を貼り、「終わったぞ」と声を掛ける。
刹那は、今だ重い痛みが残る頬に手を添えた。
自ら手を掛けた、仲間の恋人を思った。
自分を殴る時の彼の悲痛に歪んだ顔が思い浮かんだ。

「…君がしたことは、間違いじゃない」

床に視線を落とした刹那を見て、ティエリアが宥めるように言う。

アニュー・リターナーは、ライルのことを想いながらも、やはり自分達とは敵対する存在であることには相違なかった。
実際、彼女をあのまま放っておけば、おそらくライルが死んでいただろう。
それは今のプトレマイオスにとって大きな痛手だった。
だから、刹那の判断は正しかった。
そう、思うほかなかった。

だが刹那は、ティエリアの言葉を否定するように、ふるふると、首を横に振る。

「そんな言い方をすれば、アニュー・リターナーが死んでもよかったことになる」
「なら君の行いは間違っていたとでも言うのか?あのままでは、ロックオンが死んでいた」
「わかっている。だが、そんな風には、言いたくない」

彼女の死を肯定することは、ライルに対する最大の侮辱だ。
そんなことはしたくなかった。
例えアニューがイノベイターだとしても、二人は、本当に想い合っていたのだろうから。

失うことのつらさを、知らないわけではなかったから。


「勝手だな」

ぽつりと、刹那が言った。
ティエリアは何も返さなかった。

「ロックオンを…ライルを死なせない為に、アイツの大事な人間を奪うなんて、そんなの勝手だ」

結局何一つ変わらない。
「彼」を助けられなかったときと一緒だ。
救いたいとどこかで願っていたのに、何も出来やしない。
なんて無力なのだろう。


しばらくの沈黙の後、刹那は何も言わずに腰を上げ、メディカルルームを後にしようとした。

「刹那」

案ずるようなティエリアの呼び掛けに、刹那は力なく笑った。

「大丈夫だ」

そのまま、自動扉の向こうに姿を消した。


メディカルルームで残ったティエリアは、ただ苦い顔をしていた。

自分では、彼を救う言葉を見つけることが出来なかった。
刹那は、いつか自らが背負う罪に押しつぶされてしまうだろう。
だが、そこから抜け出させる術が、今のティエリアにはなかった。

「ロックオン…貴方なら、こんな時何と言う?」

もういない「彼」に、ただ救いを求めるしかなかった。
立ち止まることは、許されない。
09.02.24


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