やさしくなんかしないで
渇いた恋慕

朝からどことなく体が重いのはわかっていた。
特に、下腹部の辺りが。
まるで鉛を入れたようなその鈍い、それでいて重い痛みに、顔をしかめる。
これだから、女は。

自分が女であることを享受したことは一度もない。
常に戦いと隣りあわせだった故郷でも、そしてここでも。
故郷で女だとわかれば男の食い物にされ、ここで女だとわかれば違う扱いを受ける。
何故自分が女であるのかすら、疑問に思ってしまうほどだ。

スメラギ・李・ノリエガのような色香もない。
クリスティナのような包容力もない。
フェルトのような、かわいさなど、もっての他。

そんな自分が、何故女なのか。

この月に一度来る痛みが、余計にそう思わせる。
初めて来たときは絶望感すらあったほどだ。

重い痛みを抱えたまま、ブリーフィングルームへと向かう。

後日行われる予定のミッションの内容を確認する際中も、ずっと下腹部は鈍痛が襲っていた。
薬は、飲みたくはなかった。
嫌いなのだ。あの類、そのものが。

ブリーフィング終了と同時に、各自がその場を後にする。
自分も続こうとしたが、足は思うようには動いてくれない。

ブリーフィングルームを出てしばらくして、視界が歪んだ。
「刹那」

感覚が歪んだ中で、その声だけ、やけにはっきり聞こえた。

目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入る。

「お、目覚めたか?」

その声に視線を動かせば、彼がそこにいた。

「ロックオン…」
「ビックリしたぞお前、いきなり倒れるんだからな」

眠ったからだろうか、先ほどまでの痛みは、少しだけ和らいでいた。
ゆるゆるとベッドから体を起こす。

「ほい」

そう言われ差し出されたのは、湯気を出しているマグカップ。

「ホットミルク。飲んどけよ」

またミルクか、と顔を歪ませたが、いちいち反論するのも今は面倒だ。
黙って、そのカップを受け取り、口に運ぶ。
ちょうどいい、温度だった。

「全く、無理すんなよ、女の子なんだから」

その言葉に、思考が停止する。


今、なんと言った?この男は。
何故知っている?
スメラギ・李・ノリエガが話したのか?
いや、そんなことをする人間ではない。


なら何故。

よりにもよって、何故コイツが。

凝視する視線の意味を知ったのだろう、彼は言葉を続けた。

「あぁ、知ってたよ。いや、なんとなく。
たぶん知ってんの、俺だけだよ。たぶん、だけど」

だから無理しちゃダメだぞ、と、また同じ言葉を紡ぐ。

「いつ、からだ」
「いつって…えー…一年くらい、前か?」

そんなに、前から。

あぁだからか。
この男が、自分をいつも甘やかすのは。

「誰にも言うな」

「言わないよ。隠したいから何にも言わなかったんだろ、今まで」

その言葉に、少しだけ安堵する。
この男は、冗談は言っても、嘘は言わないと知っていたから。

「女扱い、するな」

その言葉に、ロックオンが一瞬目を丸くするのがわかった。

「別に、してるつもりないよ。てかそんなことしたらお前怒るだろ」

納得してしまう自分がいた。
そこまで言うには、きっと態度は今までと変わらないのだろう。
前から知っていたなら、きっと今更変えようもない。

あぁけれど。

アンタには一番、知られたくなかった。

何故なんて、知らないけれど。

08.12.30

title by=テオ