ありがとう、
日だまりみたいな笑顔
普段では見られないような状態だった。
数日程前から、自身を除く刹那・ティエリア・アレルヤの三人が、どうもよそよそしくなっていることに、ロックオンは首を傾げた。

夕食が終われば三人ともいそいそと自室に篭り、話し掛ければどこかぎこちない。
その様子に、ロックオンは妙な懐かしさすら覚えた。
まるで出会った頃に戻ったようである。

いや違う。

仲間はずれにされているのはどうやら自分だけのようで、三人同士はいつもと変わらない態度だ。
自分は三人から仲間であることを認められていると思っていたが、それは勝手な勘違いだったのだろうか。
もしくはこの暮らしに嫌気が差したのだろうか。
そう思うと、胸の辺りがなんだかもやもやした。
いい大人が情けないと思いつつも、ロックオンは本心を否定しなかった。
三人の態度が変化してから一週間。
ロックオンは、どこか重たい足取りで家路に着いていた。

もう一週間だ。
いい加減この胸のもやもやと付き合うのも限界に近い。
寧ろ胸に鉛でも落ちたのではないかという程だ。
家族の多い環境で育ったせいか、一人が基本的に苦手だということを実感させられた。

玄関の前で一つため息を吐いて、扉を開ける。
しかし、中は灯り一つ付いていなかった。

おかしい。
ついには自分に対するいやがらせでも始まったのだろうか。


そんな嫌な考えを消し去るように、目の前が突然真っ白になる。
灯りが付けられたのだと理解するまで少しかかった。
暗闇が広がっていたせいで、明るさに目が慣れるまで時間を要した。


ようやく慣れてきた目に映ったのは、刹那と、ティエリアと、アレルヤの三人が並んで立っている姿だった。
なんだろうかこの状況は。
何故、刹那の手に真っ赤な花束があるのだろうか。
現状を全く理解出来ていないロックオンの元に、刹那が近寄り、そして、手にしていた花束を差し出した。

「え、な…」

「母の日だ」


は?
ははの、ひ?
母の日と言うと、日頃世話になっている母親を労う、あの世界的なイベントだろうか。
なるほど、確かに刹那の持つ花はカーネーションだ。
しかし記憶が正しければ今日は母の日ではないはずだ。
自身の故郷の母の日は、四旬節の第四日曜である。
今日は五月の第二日曜。どう考えても日がずれている。

「本来ならお前の故郷のものに合わせるべきなのだろうが、生憎過ぎた。
だから、日本式だ」

刹那に日本式、と言われ、ロックオンはようやく納得する。
確かに日本の母の日は、アメリカのものに合わせた、まさに今日だ。
おそらく潜伏先であった東京の隣人に教わったのだろう。
わざわざ日本式、と言った理由も納得出来る。
だが納得出来たのは何故母の日が今日なのかということだけで、自分に花束を向けられている理由は未だ納得できていなかった。

「刹那が最初に提案したんだ。ロックオンにはいつも世話になってるからって」
「せつな、が?」

アレルヤにそう教えてもらい、刹那を見るが、当の本人は顔を俯かせてしまっている。
これはたぶん、照れている。

「えーと、最近よそよそしかったのは…」
「それは僕の案。どうせなら当日まで内緒にしようって。でも思わず話しそうになって危なかったよ」
「それは君だけだ。僕と刹那は何の問題もなかった」

ティエリアにそう言われ、アレルヤはバツが悪そうに笑う。
あぁ、いつも見る光景だ。

ダイニングに視線を移せば、テーブルの上にはいくつもの料理が並べられている。
全部、母が作ってくれたことのある故郷のものだ。

「みんなで作ったんだ。今日はロックオンの好きなものばかりだよ」

そう言ったアレルヤだけでなく、刹那もティエリアも、どこか誇らしげだ。
あぁどうしよう。
仮に明日自分に咎が下ったとしても、きっと何の後悔もない。
それくらい今、満たされている。

よりにもよって母の日を選ぶきかん坊も、
不器用なくせに料理に励んでくれた鉄仮面も、
言いだしっぺのくせに秘密を話しそうになるうっかり者も、
みんな大好きだよ、このやろう。
生きることに投げやりにならないのは、きっとこの家に君がいるから
09.02.27

title by=テオ


――――――
気の早すぎる母の日ネタ。
ロックオン兄さんはみんなのおかんなんだ、という話。笑。
しかし兄さん情けないな。