コンコン、と小気味よいノックの音が室内に響く。
それからすぐ、ドア越しの、少し篭った声が聞こえる。

「ロックオン、今少しいいですか?」

アレルヤだった。
そもそもこの家の中でご丁寧にノックする人間など、限られているのだが。

「おぅ、いいぜ。でもちょっと静かにな」
「?はい」

入ってもよいと言ってはもらえたものの、そこに注文が付いた。
返事をするロックオンの声も、どこか小さい。
その注文の意味がわからずアレルヤは首を傾げたが、言われたとおり、なるべく音を立てないように室内へと入る。


部屋の中ではロックオンが携帯端末を片手に、ベッドに腰を下ろしていた。

その彼の膝の上で、刹那が目を閉じて眠っていた。


そこでようやく、アレルヤは先ほどのロックオンの言葉の意味を理解する。
アレルヤがじっと眠る少年のことを見ていると、先に言葉を発したのはロックオンだった。

「あんま寝てないみたいだ、最近」

そう言って、刹那の黒い髪を撫でた。

その光景は、親子か、はたまた兄弟か。
考えたが、どっちでも当てはまりそうで、どっちにも当てはまらなさそうだった。

アレルヤはさほど驚いてはいなかった。
ソレスタルビーングとして活動していた頃も、何度か見たことがあった。

今でも警戒心の人一倍強いこの少年は、何故だかロックオンの膝の上では、目を閉じることが出来ていた。
もちろん自分から言ったりはしないのだろう。
たぶん今回もロックオンが気づき、ロックオンが無理に横にさせたのだ。

「で、何か用か?」

ロックオンにそう言われ、ようやくアレルヤはこの部屋に来た目的を思い出す。

「あぁ、ごめん。借りた本、返そうと思って」

今やめずらしくなった紙媒体のそれを、ロックオンは好み、多く所持していた。
アレルヤは、時々それらを借りては読んでいる。

「おぉ、サンキュ。またなんか持ってくか?」
「いいんですか?じゃ、遠慮なく」

そう言ってアレルヤが部屋の隅にある本棚に歩を進めると、目を閉じていた少年が起きてしまったらしい。
シーツの擦れる音が、アレルヤの耳に入る。

「早いって。まだ寝てろ」

少し開きかけたその眼を、ロックオンは言いながら手で覆い隠す。
するとまた眠りに入ったのだろう、刹那は動かなくなった。


「変な話だよな」

視線を刹那に向けたまま、ロックオンがアレルヤに言う。
アレルヤは黙って、ロックオンの言葉を待った。

「寝てるときが、普通は一番楽なはずなのに、さ」

安らぎを与えるはずの睡眠は、時折少年に真っ暗な闇を見せる。

ロックオンは、また刹那の髪を撫でた。
その手つきも、表情も、すべてがやさしくて、でも余計に、かなしく見えた。






後何度同じ夢を見るのだろう






(眠れぬ夜は貴方の腕の中で)








09.01.01


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