「全部終わったら、お前らと一緒に暮らしてぇな」


彼が笑って、そう言った。

だからたぶん、今こうしてここにいるんだと思う。
僕らは歩き続ける 今までも、そしてこれからも
私設武装集団ソレスタルビーイングの「武力による戦争根絶」という矛盾した活動は、世界を大きく動かした。
国連軍による掃討作戦が終了した後、地球連邦と言う名の、一つの大きな国が誕生した。
世界は、彼らの計画通りに動いた。

だが彼らとて無事では済まされなかった。
「フォーリンエンジェル」と呼ばれた掃討作戦によりプトレマイオスはその戦力のほとんどを失い、実質、活動停止を余儀なくされた。

だが、ただ一つの命ですら欠けなかったのは、奇跡と言っていいほどであった―――。
それを最初に言い出したのは彼で、実行しようとしたのも彼だった。

「フォーリンエンジェル」からしばらくして、ようやくプトレマイオスに落ち着きが戻ってきた頃、ガンダムマイスター最年長の彼は、 若き戦術予報士に進言した。
最初はもちろん苦い顔をされた。
当たり前だ。
「プトレマイオスを一旦降りてマイスター四人だけで暮らす」など、今までの状況からいってさらりと首を縦に振るわけにもいかない。
だが彼はその苦い顔を物ともしなかった。

「自分がいるから大丈夫だ」

そう言っていつものように笑った。
その自信はどこから来るのだ、と言いたくなったが、何故か説得力があった。
そこが彼の不思議なところだ。

確かに今の戦力を考えると今後しばらくは活動は不可能。
何もしないわけにも行かないが、それでも以前のように派手には出来ないだろう。
それに、掃討作戦等の、今までの戦歴を考えると、さすがに羽を休める時間が必要でもある。
それはガンダムマイスターだけではない。プトレマイオスのクルー、全員に言えることであった。
みんな、疲れきっていたのだ。

どこまでも自分は甘い。
戦術予報士である彼女は小さな自己嫌悪に陥ったが、本心に従った。
小さくため息をついて、「仕方ないわね」とわざと言ってみせた。
彼の行動は早かった。
戦術予報士が首を縦に振れば、いつの間にか片田舎の小さな町に家を建て、いつの間にか家具一式を揃え、いつの間にかそこ住めるように事を進めていった。
これにはみんな驚きと呆れを隠せなかったが、何故か反対する人間は誰もいなかった。
ただひと時の安らぎの時間に、みんな身を寄せ合った。
どこかで傷を舐め合いながら、どこかで傷を隠しながら。
ただ静かに、喜びを分け合った。


朝にはいつもの声が響く。

「おーい、メシ出来たぞー。起きろお前らー」
そうして静かな今日がまた幕を開ける。
08.12.30


title by=テオ