僕らは琥珀色の夢を見る -刹那とティエリア-
「君は、霊というものを信じるか?」


食堂でただ黙々と食事を取っていた時のことだ。
(プトレマイオスが新しくなってからは、食事の内容がどこか単調だ。)
刹那の向かいに座っていたティエリアが、ぽつりと漏らした。

「れい…?……ゴーストの、ことか?」

刹那は食事を取っていた手をぴたりと止め、目を丸めた。

「そうだ」

ティエリアは淡々と刹那の問いに答えた。

「意外だな…お前がそんなことを言うなんて」

刹那が、素直に思ったことを口にした。
口にせずにはいられなかった。
あの、どこまでも現実主義で冷徹で(最近はそうでもないが)頭の固い(刹那自身も言えたものではないが)
ティエリア・アーデが、「霊」などという単語を口にするとは、夢にも思わなかったのだから。

「僕だってたまにはそういうこともある」
「…何か、あったか」
「……別に、何もないさ。…ただ、霊という存在がこの世に本当にあったとしたら、『彼』も今、
この艦に乗っているのだろうかと、そう思っただけだ」

新しい、この艦に。
「彼」は足を踏み入れることはなかった、この艦に。

もしかしたら、側にいてくれているのかもしれない、なんて、そんな風に思ってしまう。


「…一度だけ、会ったことがあるんだ」

ティエリアが続けた。

「掃討作戦が終わってしばらく経った頃、一度だけ。
生きるつもりだったと、言っていた。あとを頼むと、言われた。…あれは、夢だったんだろうか」

ティエリアはぼんやりと前を見つめた。

霊という存在そのものを信じたことはなかった。
そもそも非現実的なものにあまり興味がなかった。
けれど、もし霊という存在が本当にこの世に存在しているとしたら。
「彼」は、今どこで何をしているのだろう。


「…もし仮に」

刹那が言う。
ティエリアは顔を上げた。

「仮にこの世に霊という存在が本当にいるのだとして、ロックオンがこの艦に乗っているとする」
「…それで?どうする?」

「流れ弾に当たるから、さっさとどこかへ行けと言ってやる」


ぽかん、とティエリアが目を丸める。
それはしばらく続いた。

しばらく経って、ティエリアが、くつくつと肩を揺らして笑った。

「はは…なるほど、確かにそうだ…。戦闘に巻き込まれるだけだな」
「こんなところにいるより家族の元にいった方がよっぽど安全だ」
「くく…君らしいな…」

ティエリアは口元を抑えて笑い続けた。
刹那はそんな彼を見て、少しだけ、口元を緩めた。


「アイツに会ったことが夢か夢じゃないかは、お前次第だと、俺は思う。
夢にしたくないのならきっと夢にならないし、夢であっていいのならそれは夢のままだ」

そう言う刹那の表情は穏やかだった。
ティエリアは、ようやくそこで笑うのを止めた。

「…そうだな、そうかもしれない。…刹那は、会ったことはないのか?」
「夢の中になら、時たま現れる」
「何を言われた?」
「きちんと眠っているかとか、きちんと食事を取っているかとか、そういう程度だ」
「…変わらないな、昔と」
「だからさっさと追い出す。口煩いだけだ」
「なるほど」

ティエリアがまた笑う。
刹那は穏やかに口元を緩める。





そんな二人を優しい眼で見下ろす存在があったのは、また、別の話。
09.07.07

title by=テオ