足手まといな優しさなんて
刹那・F・セイエイにとって、ロックオン・ストラトスという人間は厄介以外の何者でもなかった。
プトレマイオスの艦内で遭遇しようものなら、やれメシは食ったか、やれ睡眠はちゃんと取ってるか。
もはや心配などという言葉を通り越して、ただの小言にしか聞こえなかった。
思えばガンダムマイスターに選ばれてから約一年。
彼からその類の言葉を聞かない日は、今ではないに等しいだろう。



「あ、お前さんまたシャワー浴びて髪乾かさないで、全く」

次のミッションプランのメモリースティックを手にロックオンが刹那の部屋を訪れ開口一番が、コレだ。
ロックオンは棚からタオルを引っ張り出し、少し荒く刹那の髪を拭き始めた。

「別にミッションに支障は、」
「あるっつの。風邪でも引いたらどうすんだ」

「ない」と、そう言おうとした刹那の言葉を遮り、ロックオンが呆れたように言う。
刹那は、それから反論も抵抗も、何もしなかった。
ただロックオンが自身の髪を拭き終わるのを、じっと待っていた。
しばらくすると「うっし、終わり」と、ロックオンの満足気な声が聞こえた。
視線を上げ、ロックオンを見れば、どこか含んだ笑みを見せている。

「何がおかしい」
「いやぁ、ずいぶんおとなしくやらせてもらえるようになったなぁと思ってさ」

昔は何やるにしても「俺に触れるな!」だったのによ、とわざとらしく言ってみせる彼に、なんだか少し腹が立ったので、脛を蹴ってやった。
刹那・F・セイエイにとって、ロックオン・ストラトスという人間は、厄介以外の何者でもなかった。
最初の頃は嫌悪すら感じていたその言葉や仕種を、いつの間にか決して嫌ではないものに、変えてしまったのだから。
09.02.13

title by=テオ