貴方の痛みがわたしに移ってしまえばいいのに -刹那とフェルト-(9話捏造)
フェルトがそのことを聞いたのは、ティエリアからだった。

ロックオンたちが巻き込まれたテロを実行した張本人と、最後に接触したこと。
そして、それを止めることが出来なかったこと。


刹那が抱えていた過去の断片を知って、フェルトはただ胸を痛めた。
きっとこれは刹那の一部にしか過ぎない。
まだ一人で溜め込んでしまっているのではないかと、フェルトは不安に駆られた。


少しの間だけブリッジをミレイナに託して、フェルトは居住エリアに足を運んだ。
向かう先は、もちろん刹那の部屋だった。

行ったとしても、自分に出来ることなどないかもしれない。
刹那の心は刹那にしかわからない。
自分がそれを共有することは決して叶わない。
それでも、フェルトはこのまま刹那を一人にしておきたくはなかった。


部屋から現れた刹那の表情は至って普通だった。
フェルトの来訪に、少しばかり驚きはしていたが。
けれど、フェルトの不安は拭えなかった。
刹那が感情を表に出さないのは、昔と変わらないことだったからだ。

刹那に促され、フェルトは部屋の中に入った。

「聞いた…ティエリアから」

フェルトはそれだけを言った。
けれども刹那には充分伝わったようで、彼は、小さく笑った。

「…大丈夫?」
「問題ない。いつかは言わなければならないと思っていたことだ」

表情を変えず、受け止めたように話す刹那だったが、それはフェルトの不安を増長させるだけだった。

「そんな風に、言わないで」

刹那は目を丸めつつも、何も言わずにフェルトの次の言葉を待った。

「一人で抱え込まないで。平気そうな顔なんて、しないで。
今の刹那見たって、ロックオンはきっと安心なんてしない…」

彼の名前を出されて、刹那は小さく笑った。
どうにも敵わないのだ。彼の名前を出されると。

「すまない…余計な心配を掛けた」
「余計じゃないよ。余計じゃない…。ただ刹那に、無理してほしくないの」

そうやって、全て一人で抱えてしまって、いつか知らず知らずのうちに刹那が壊れてしまうのではないかと、ただそれが怖かった。

刹那が守りきれない刹那の心が押しつぶされて。
刹那が許さない刹那の罪を抱え切れなくて。
いつか、自分の前から消えてしまうのではないかと。

失ってしまうのは、もう、嫌だった。
それは、お互いがお互いを安心させたいが為の行動だったかもしれない。
刹那はフェルトの膝に頭を預け、フェルトは時々そんな刹那の髪を優しく梳いた。

「…痛くない?」
「平気だ。お前こそ…重くないのか」
「うん…大丈夫」

言葉を紡ぐことを止めれば、沈黙が生まれた。
その沈黙はひどく穏やかだった。



少しずつまどろみ始めた刹那を見て、フェルトは口元を緩めた。
彼の穏やかな瞬間を、少しでも守りたかった。

だから、心の中で決めた。

刹那を決して、独りにはしないと。
刹那自身が守れない刹那の心を、自分が守っていくと。
刹那が許さない刹那の罪も、自分が許していこう、と。
09.10.16